材料の靭性を決定するのは、もちろん原子間の結合力の強さであるが、もう一つにはき裂先端での転位の生成と運動が関与している。すなわち、き裂先端に導入された転位は、先端を鈍化させると同時に、転位自身の持つ応力場がき裂先端の集中応力を緩和させることによって靭性値を上昇させる。このようなき裂先端での転位の挙動を知るために、申請者等の開発した動的光散乱トポグラフィ-法を用いて実験を行い、次のような結果を得ている。 1.光散乱トポグラフィ-備置アルゴンイオンレ-ザ-からの光を絞って試料に照射し、光学顕微鏡を用いてき裂先端を観察した。転位からの散乱光は極度は微弱であり、これを増強するためにイメ-ジインテンシファイヤ-を顕微鏡に装着するとともに、転位の動的挙動を撮影・記録するためにCCDカメラ、VTRを使用した。顕微鏡下で転位を導入、運動させるために、小型の荷重付加装置を試作した。負荷方法は、パルスモ-タ-駆動の移動ステ-ジを利用して変位制御型とし、ひずみゲ-ジの出力から計算した荷重をVTR上に映像と同時に表示した。 2.転位運動の観察結果き裂先端部での転位の観察を行うのに、き裂からの強い散乱を避けるために、レ-ザ-光がき裂面と平行になるような配置をとった。そうすることによってき裂先端部の極近傍に存在する転位も観察することができるようになった。KCl単結晶を用いた観察結果によれば、転位の生成は、荷重を加えてから一定時間を経てから突然起こり、同時に多数の転位が生じることが判った。このことから転位の生成には熱活性化過程が関与しているという結論を得た。
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