材料の靭性を決定するのは、もちろん原子間の結合力の強さであるが、もう一つにはき裂先端での転位の生成と運動が関与している。すなわち、き裂先端に導入された転位は、先端を鈍化させると同時に、転位自身の持つ応力場がき裂先端の集中応力を緩和させることによって靭性値を上昇させる。このようなき裂先端での転位の挙動を知るために、申請者等の開発した動的光散乱トポグラフィ-法を用いて実験を行った。転位の観察には、き裂からの強い散乱を避けるために、き裂に対して平行にレ-ザ-光を入射させる試料配置を取り、それと直角の方向から観察するようにしたが、それでも、き裂からの散乱が強い場合には、この装置に共焦点顕微法を適用し、その結果、これまで以上にき裂先端に近い領域をコントラストよく観察することが可能になった。この法方は、走査型で用いるために、速い動きをとらえることはできないが、深さ方向の分解能を極端に向上させることができる。以上の装置の改良により、次のような観察結果を得た。 KC1単結晶のき裂先端部では、ある引っ張り荷重がかっている状態から、わずかに荷重を追加しただけで多数の転位が放出されるのが見られた。また、荷重を追加してしばらくたってから、転位が放出されるのも希に観察されており、これから転位の生成には熱活性化過程が関与しているという結果を得た。さらに、き裂先端からわずかに転位が放出されると同時に、き裂のほうへと戻ってくる転位がしばしば観察された。これらの転位の存在する位置を測定し、計算結果と照らし合わせたところ、転位はき裂先端に対してアンチシ-ルディング効果を及ぼしていることがわかった。しかし、き裂先端から放出された転位によるシ-ルディング効果と、戻ってくる転位によるアンチシ-ルディング効果のどちらが破壊過程を支配しているのかは特定できていない。
|