本研究では、気相急冷法の非平衡性、複合化の容易さに着目し、従来にない新規な磁性材料の開発を行い、併せてその微細構造と磁気特性の関連を調べた。 磁気記録の高密度化には高飽和磁化を有する材料が不可欠であるが、その要請を満たすものは鉄基材料に限られるにもかかわらず、従来は平衡状態図に記載されている合金系の利用にのみ限られていた。我々は新たに気相急冷法によってしか創製し得ない非平衡晶質相(即ち、三次元人工結晶)の材料化の可能性を探っており、この三次元人工格子マトリックスと共有結合物質(炭化物、ホウ化物、窒化物など)との複合化により、高飽和磁化を維持したまま、高比抵抗化による超高周波磁気特性の向上、熱安定性の向上を図った。 具体的には、鉄系ナノ結晶材料では約20nm以下に粒径を維持することにより高飽和磁束密度を有する軟磁性体が得られた。20nm以下の粒径を実現するには様々な物理的・化学的手法がある。物理的手法には多層化、イオンアシスト、非晶質相からの結晶化、基板温度の低温化等が、化学的手法(合金化)には侵入型元素の添加、置換型元素の添加、両者の複合化が考えられる。また物理・化学両手法の組合せも考えられる。我々はこれらの手法を駆使して種々の2T軟磁性体を創製した。 ナノ結晶材の安定化には粒界構造が大きく影響することが判明した。現在のところ、粒界または分断層として強磁性非晶質相を用いるものと超微細粒共有結合物質を用いるもので、優れた軟磁性が得られ且つ1000K程度までの高い熱安定性が実現された。
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