本年度はまず、すでに微細構造のキャラクタリゼ-ションが完了しているジルコン溶射皮膜およびアルミナ-クロミア溶射皮膜の熱処理による変化を調べた。プラズマ溶射によって得られたセラミックコ-ティング皮膜においては、セラミックスが溶融状態から急冷されるため、アモルファス相の形成、あるいは準安定結晶相の生成、微細結晶粒化などが生じ、複雑で微細な組織が形成される。それらの組織の熱的安定性を調べることは実用的に重要な課題であるばかりでなく、材料組織学的にも興味深いことである。ジルコン溶射皮膜では急冷のためSiO_2とZrO_2との相分離が生じており、ZrO_2はその結晶粒の大きさが0.1μm以上のものは単斜晶であり、200A^^°以下のものは正方晶であった。1300℃の焼鈍によってSiO_2とZrO_2とが反応してジルコンが形成されるとともに粗大化した単斜晶ジルコニアが生じることを見出された。アルミナ-クロミア溶射皮膜は約0.4μmの微細結晶粒多結晶体からなり、粒界に微細な析出物が多数存在していた。1300℃の熱処理によって、粒界析出物は消失し、結晶粒は粗大化するとともに転位ル-プや転位ネットワ-クの形成が観察された。つぎに、ムライト系(3Al_2O_3・2SiO_2)およびフォルステライト系(2MgO・SiO_2)溶射皮膜の電顕試料の作成し、観察することを進めてきた。その観察結果およびX線回析の結果はムライト系では非晶質SiO_2中にγーAl_2O_3が、フォルステライト系では非晶質SiO_2中にクリノエンスタタイト(MgO・Al_2O_3)が存在することを示唆している。
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