研究概要 |
ステンレス鋼,インバ-,インコネルなど,オ-ステナイト系の金属を多層溶接すると,次層の入熱によって前層の凝固部の結晶粒界に小さな割れ(ミクロ割れという)を生じることがある.本研究ではステンレス鋼多層溶接部を用いて,溶接条件,粒界への成分偏析,粒界の方位差や構造などの面から,ミクロ割れの発生機構を検討した. 得られた主な結果は次の通りである. 1.ミクロ割れは液化割れと延性低下割れの2つの要因によって生じている. 2.前層および次層の,特に次層の溶接速度が小さいとミクロ割れが生じやすい.また,組織が完全オ-ステナイト相の溶接部のほうが,フェライト相を含む組織の溶接部に比べてミクロ割れを生じやすい. 3.ミクロ割れは方位差の大きな粒界に生じやすい. 4.溶接中に粒界移動をしなかった結晶粒界にミクロ割れは生じる. 以上の結果は,低融点化合物を形成する不純物元素の粒界への偏析がミクロ割れの原因であることを示唆している.しかしながら,割れを生じた粒界からこのような特別の偏析を観察することはできなかった. また,ミクロ割れが対応格子理論を用いて,ミクロ割れを生じた粒界と生じなかった粒界とを比較したが,両者の間に違いを見出すことはできなかった.したがって,粒界構造の面からミクロ割れを検討するためには,結晶と粒界面との相対関係について把握する必要がある.
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