研究概要 |
熱的にきわめて安定で,電気的に高い絶縁性をもつ化合物であるフッ化カルシウムに,超高真空中で電子線が照射すると、フッ素が脱離し、表面に多数の欠陥が生成することはよく知られている。本研究は、フッ化カルシウム表面の欠陥について,その構造を解析することを目的としている。 前年度は、水蒸気分圧の高い10^<-8> Torr台の真空中でフッ化カルシウム表面に電子線を照射すると,表面に生成した欠陥が残留水蒸気とただちに反応し,表面に酸化カルシウム相を形成すること、生成した酸化カルシウム相は下地のフッ化カルシウムとエピタキシャルな構造関係を有することを見出し、また、その過程における表層組成ならびに表層構造の解析に化学状態識別X線光電子回折法がきわめて有効であることを示した。 本年度は、実験系の真空度を10^<-9> Torr台に維持し、フッ素脱離により生成した欠陥が安定に存在する条件を保つことにより,欠陥自身の構造を解析することを試みた。電子線照射量を0〜1mC/cm^2の間で段階的に増加させると、表面から2〜3層以内におけるフッ素原子の量が減少することがX線光電子分光法により確認された。また,FIS光電子の示すX線先電子回折パタ-ンは、フッ素の減少にともない、特定の角度にあるピ-クの強度が減少し、フッ素の脱離構造に規則性のあることが示唆された。X線光電子回折パタ-ンの変化と表層の欠陥構造の関係を対応づけるため、光電子の1回弾性散乱を仮定した運動学的回折モデルに基づく理論計算を行い、その結果と実験により得られた結果を比較することにより、フッ化カルシウム(III)面の,第3原子層に存在するフッ素原子が選択的に脱離した構造が実験事実をもっともよく説明できることが示された。
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