研究概要 |
熱的にきわめて安定で、電気的に高い絶縁性をもつ化合物であるフッ化カルシウムに、超高真空中で電子線を照射すると、フッ素が脱離し、表面に多数の欠陥が生成することはよく知られている。本研究は、フッ化カルシウム表面のフッ素脱離欠陥について,その構造を解析することを目的としている。 残留ガス中の水蒸気分圧が90%程度の10^<-8>Torr台の真空中でフッ化カルシウム表面に電子線を照射したところ、表面に欠陥が生成したフッ化カルシウムは水蒸気とただちに反応し,表面に数〜数10Åの酸化カルシウム相が形成されることが見出された。フッ化物のカルシウムと酸化物のカルシウム、カルシウムと結合した酸素と吸着水分子中の酸素をそれぞれ区別した化学状態識別X線光電子回折法により生成した酸化カルシウム相の構造を解析した結果、下地フッ化カルシウムと表層酸化カルシウムは〈111〉結晶軸を共有し、〈111〉軸のまわりに互いに180°方向の異なるエピタキシャルな関係にあることを明らかにした。 真空度を10^<-9>Torr台とし,フッ素脱離により生成した欠陥が安定に存在する条件下で電子線照射量を0〜1mC/cm^2の間で段階的に増加させると、表面から2〜3原子層以内におけるフッ素原子の量が減少することがX線光電子分光法により確認された。また,F1s光電子の示すX線光電子回折パタ-ンは、フッ素の減少にともない、特定の角度にあるピ-クの強度が減少し、フッ素の脱離構造に規則性のあることが示唆された。X線光電子回折パタ-ンの変化と表面の欠陥構造の関係を対応づけるため、光電子の1回弾性散乱を仮定した運動学的回折モデルに基づく理論計算を行うことにより,フッ化カルシウム(111)面の、第3原子層に存在するフッ素原子が選択的に脱離した構造が実験事実をもっとよく説明できることが示された。
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