非弾性電子トンネル分光法により、金属酸化物とくにアルミナ表面に吸着した有機イオウ化合物の状態解析を目的としている。このため、金属/金属酸化物/試料/鉛の接合を作製し、接合を流れるトンネル電流を極低温(4K)で測定した。これより得た試料分子の振動スペクトルを解析し、アルミナ表面での吸着状態を検討した。有機イオウ化合物にはメタンおよびベンゼンスルホン酸およびそのスルホン酸メチルエステルを用い、アルミナ薄膜は、蒸着装置の真空度向上を計った後アルミニウムを真空加熱蒸着、グロ-放電酸化して形成させ、一部スパッタ法で作製し、薄膜表面における反応吸着について調べた。吸着状態の解析には参考として試料のFTIR、ラマンスペクトル、及び吸着状態のトンネル分光法による振動スペクトルとの比較のため、鉛のみを蒸着しない接合作製条件で調製したアルミナ表面および試料を多量吸着させたアルミナ表面の反射FTIRを測定した。反射FTIRスペクトルでは、いずれも情報になるスペクトルは得られなかった。これより、非弾性電子トンネル分光法による測定は、表面解析には極めて高感度な測定法であることがわかった。そこで、試料のみのFTIRおよびラマン分光からの情報を参考にして吸着分子の振動スペクトルを調べ薄膜表面の状態解析を行った。 この結果、スルホン酸はメタノ-ルおよびベンゼン溶媒中からアルミナ表面のOH基と瞬時に反応し、水を失ってスルホン酸イオンとなり、アルミナ表面に形成されたルイス酸点とイオン結合して保持されること、このスルホン酸イオンは表面に三脚状で垂直に配向していることがわかった。一方スルホン酸メチルエステルでもアルミナ表面のOH基と反応し、反応性は若干悪いが脱アルコ-ルにより、スルホン酸と同様、スルホン酸イオンとして表面に垂直に配向吸着していることを明らかにすることができた。
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