研究概要 |
近年、材料の表面状態の研究には電子顕微鏡を始めとし多くの優れた機器分析法が開発されており、されぞれに特徴がある。非弾性電子トンネル分光法(Inelastic Electron Tunneling Spectroscopy,IETS)も測定される振動スペクトルより、表面状態を解析する有用な方法の一つとして注目されているものである。 本研究では、アルミナ表面をイオウ化合物やその他の物質と接触させた時の吸着状態や金属で覆われた時の表面状態を非弾性電子トンネル分光法の手法を用いて解析しようとするものである。イオウ化合物については、前年度のメタンスルホン酸及びベンゼンスルホン酸のアルミナ上の状態分析に続いて、スルホン酸エステルに汚染された場合のアルミナ表面の状態を調べた。表面は、アルキル基の鎖長に関係なくスルホン酸イオンの形で吸着されており、エステルはアルミナ表面の水酸基と脱アルコ-ル反応をおこして容易に分解させることが分かった。 また、アルキルチオ尿素のアルコ-ル溶液及びアルキルチオアミドの水溶液でアルミナ表面を処理した後のIETスペクトルでは、スルホン酸エステルの場合とは異なり、表面はチオ尿素やチオアミドが分子の状態、すなわち、分子中の窒素原子の孤立電子対がアルミナのルイス酸点(0ーAl^+ー0)と相互作用して吸着されることが分かった。スパッタ装置を用いて銅、鉄をアルミナ表面にスパッタ蒸着して薄膜を形成させた時のトンネルスペクトルでは、0〜8000cm^<-1>までピ-クのないフラットなスペクトルを示し、アルミナ表面とは異なる状態であることが分かった。この結果は、これら金属表面の状態および各種の物質が吸着したときの状態解析が容易で、表面の諸特性の解明に寄与するところが多く、よって多方面にわたる検討が必要であり、今後深く究明することが期待される。
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