遷移金属イオンを含むスピネル型複合酸化物結晶には、電気的・磁気的に優れた性質を持つものが多く、広く応用されている。結晶作製の条件と遷移金属イオンの状態との関係を明らかにすることは重要である。 本研究では、種々の条件で作製した、鉄スピネル、ニッケルスピネルーニッケルフェライト固溶体、ニッケル・亜鉛フェライト固溶体、マンガン・亜鉛フェライト固溶体の陽イオン分布を、X線結晶構造解析、EXAFS解析、メスバウア-スペクトル解析等により明らかにした。X線回折の測定には、本学超強力X線回折実験室の粉末X線回折装置RADーBを、EXAFSの測定には、同実験室のEXAFS測定装置を用いた。またメスバウア-スペクトルの測定は、本学放射性同位元素センタ-にて行った。リ-トベルト法解析プログラムを作成し、粉末X線回折法により陽イオン分布を求めた。X線回折は、結晶構造解析の有力な手段であるが、原子番号の近い遷移金属イオンはX線回折では互いの区別がほとんどつかないため、これらの遷移金属イオンを同時に含む結晶ではX線による構造解析は事実上不可能である。一方、X線を吸収する波長は元素毎に十分隔たっており、それぞれの元素は互いに影響を及ぼし合うことはない、EXAFSによる解析プログラムを作成し、これら元素を含む結晶の解析に適用し、よい結果を得ることができた。スピネル型の結晶の陽イオン分布は主に、静電エネルギ-、結晶場エネルギ-、及び分極エネルギ-によって決定される。これらのエネルギ-より、Mn^<3+>及びNi^<2+>は八面体サイトを、Zn^<2+>及び程度は小さいがFe^<2+>は四面体サイトを優先し、Mn^<2+>及びFe^<3+>には顕著なサイト優先性が無いことが予測されるが、実際の測定結果もほぼ満足の行くものであった。これらのエネルギ-の評価により、遷移金属イオンの配置をかなり正確に予測することが可能と考えられる。
|