有機スズ錯体は多様な種類が知られており、その性質や反応性も多岐に渡ると期待される。従来は困難であったり、貴金属触媒を必要としている反応を、これらのスズ錯体で進行させることは合成化学的にも経済的にも重要な課題である。この観点に立っての検討の結果、以下に示すような結果が得られた。(1)は従来困難であり、(2)はPd触媒を置き換えたものである。 (1)R_3SnI・ホスフィンオキシド錯体による異常シクロ付加反応 一置換オキシランの置換基側での酸素ー炭素結合の開裂を経たシクロ付加反応は、選択的に進行させることが困難であった。スズ錯体でも、例えば、Bu_2SuX_2型やSuX_2などのルイス酸性の高いものはオキシラン環を反対側で開裂した付加体を選択的に与えており、R_3SuI・0=P【.triーsubstituted right.】錯体の持異性が明かとなった。オキシランに付加する基質としては、イソチオシアナ-トやカ-ボイミドなどのヘテトクムレンが適用できることが明かとなった。 (2)ススエノラ-トとα-ハロケトンの付加反応 図に示したように、この反応は本質的にはオキシランを与えるものであり、従来のPd触媒も単にこの付加を促進させるに過ぎない。ところが、ホスフィンオキシド系の化合物を用いて、スズエノラ-トを錯体化させるという、新しいが単純な操作により生成物はオキシランから1、4ージケトンに完全に変わることが明らかになった。この結果は、スズの錯体化という手段は、反応の活性化のみならず、反応経路の制御にも有用であることを示唆しており、今後の新展開が期待される。
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