研究概要 |
本年度は,生体内に存在するヘム蛋白酵素に類似した構造をもつ酵素モデルを合成し,その触媒活性を検討した。昨年度のモデルは,0ーシアノベンズアルデヒドとピロ-ルの結合に基づくポルフィリン錯体であった。本年度合成した金属ポルフィリン錯体はエチオポルフィリンに基づくものであった。先ず常法により合成したエチオポルフィリンのメソ位を硝酸ー硫酸系でニトロ化し,ついでこれを臭化鉄,2,bールチジンを用いて金属化した。さらにこの鉄ポルフィリン錯体をオ-トクレ-プ中,pd/C触媒の存在下にニトロ基のアミノ基への水素化を行い,これに一酸化炭素を通気することによってトリアミノエチオポルフィリン鉄ーカルボニル錯体を合成した。そして生成したアミノ基を開始点としてアミノ酸NCA,すなわちLーPheとγーBLAーNCAの開環重合を行い,へん蛋白貭の蛋白質に相当する部分を構築した。 次のこのように合成した新しいペプチド鎖を有する金属ポルフィリン錯体を用いて,チトクロ-ムP450の酵素反応に類似したスチレンの不斉エポキシ化反応を行った。この反応において,昨年合成した金属ポルフィリン錯体は高い不斉収率でスチレンオキシドを生成するものの,その収率は数パ-セントにすぎなかった。しかし本年度合成した金属ポルフィリン錯体は活性中心の付近が広いため,著るしく高い収率(たとえば97.6%)でスチレンオキシドを与えた。さらにこの錯体は立体的に規制された不斉の場を有さないにも拘らず,高い不斉収率を誘導した(たとえば収率45.2%で不斉収率60.6%)。これらの結果は,ヘム蛋白貭の蛋白貭セグメントの機能を理解する上で重要な知見を与えるものと考えられる。
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