ヘム蛋白質は、蛋白質の不斉の空間内にヘムが存在するという形をしている。このようなヘム蛋白質は生体内で多くの反応の酵素となり、チトクロームP-450はその一つである。現在この酵素モデルは多く提案されているが、ヘム蛋白質の蛋白部分を模倣したモデルはない。本研究は蛋白質部分を含む新しいポルフィリン錯体を合成し、チトクロームP-450と同様のエポキシ化反応(スチレンの不斉エポキシ化)を行った。またこの結果よりヘム蛋白質の蛋白部分の効果についても考察した。 蛋白部分に相当するペプチド鎖を有する、特に4本のペプチド鎖を有する錯体を例に合成例を示す。まず、ベースとなるエチオポルフィリンを硝酸亜鉛-無水酢酸系でニトロ化し、過塩素酸で脱亜鉛後、鉄を導入した。これをPd/C触媒存在下、水素源にNaBH_4を用いてニトロ基をアミノ基とし、γ-BLG・NCAと反応させて目的のモデル錯体を合成した。 P-450モデル反応としてはヨードソベンゼンを酸素化剤として使用した。不斉収率の測定はシフト試薬を用いるNMR法によった。 例えばγ-BLGをアミノ酸残基とした3本ペプチド鎖型のモデルにおいて反応は効率良く進行したが、不斉収率は低かった(例えば収率;60.3%でe.e.11.2%)。しかし、4本ペプチド鎖を持つ今回のモデルは収率はあまり低下させることなしに不斉収率を大きく向上させた(例えば収率;52.6%でe.e.53.8%)。このように、特定の空間配座を持たない本錯体混合物が比較的高い不斉を導いた事実は趣味深い。また鎖長の変化は不斉誘導に大きく影響し、特に重合アミノ酸数をn=2.0からn=4.4とし鎖長を延ばした時、化学収率の低下なしに不斉収率が16.9%から53.8%へと飛躍的に増加した。これは単に立体規制によって不斉が誘導されたのでなく、基質を取り込んだ際、ペプチド鎖のコンホメーションが変化し、基質を最も好ましい空間配置につかせたことを示唆している。しかしn=6.2では、多分ペプチド鎖がヘリックスをまいたためか、自由度が減り化学収率と不斉収率の双方が低下することがわかった。
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