N-アセチルグルコサミン誘導体にグリコシド結合でスペーサー部分を導入し、ガラクトシル化、フコシル化してH型抗原オリゴ糖誘導体を合成した。合成スキーム中、ガラクトシル化部分については、ガラクトシルブロマイドを用いる方法も検討したが、オルソエステル法を用いた方が、合成過程を1段階短縮でき、取扱いも簡便であった。スペーサー末端にアミノエタノールを介してアクリロイル基を導入し、重合可能なモノマーとした。H型糖鎖を有するアクリル酸誘導体モノマーと、アクリルアミドおよびアクリル酸メチルとの共重合を行った。コモノマーとしてこれら2種が選ばれたのは、生成コポリマーを生体材料として考えた場合の親水性材料、疎水性材料を意識してのことである。しかも、アクリル系のモノマーは、糖モノマーとよく共重合するであろう。という点も考慮した。糖モノマーとコモノマーの仕込み比を変化させることにより、コポリマー中の糖鎖部分の分布をかなり制御できるようになった。また、糖鎖導入率の違いによりコポリマーの物性は様々なものが得られた。そこで、コポリマーの脱保護(脱ベンジル化)の際には、混合溶媒系を用いるという画期的な方法を導入することにより、容易に脱ベンジル化を可能にした。接触水添によるポリマーの脱ベンジル化は、本研究が最初の例である。次に、A酵素(N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ)を用いて、合成ポリマー中のH型糖鎖のA型糖鎖への変換を試みたところ、わずかではあるが、A型糖鎖が確認された。すなわち、合成ポリマー中の糖鎖は、生体分子であるA酵素にアクセプターとして認識されたのである。今回合成したポリマーは、他の血中分子や細胞とも相互作用するものと考えられ、人工臓器や人工血管用の生体適合性材料(抗血栓材料)などに応用されることが期待される。
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