包接重合は、分子レベルの大きさの空間での重合である。そのためにマクロの空間の重合では無視されていた空間効果が観測されるようになる。従来の重合論では、この視点から全く議論されていないので、新しい包括的な理論が必要である。本研究では、このために必要な基礎デ-タを集積することに成功した。以下に研究成果を具体的に述べる。 1.コ-ル酸、デオキシコ-ル酸、アポコ-ル酸あるいはこれらの誘導体をホストとして、ブタジエン誘導体のモノマ-の包接重合を系統的に検討した結果、重合反応における分子レベルの空間効果の存在が明確になった。この空間とゲストの大きさが近い場合には、チャンネルではモノマ-が一次元分子集合体を形成している。そのため、重合は一次元的性格を帯びるようになる。付加の選択もこの性格の一つである異方性に基づく。 2.不斉誘導の立体的要因を調べるために、不斉なホスト・ゲスト化合物の結晶構造解析を行った。そのデ-タに基づく分子グラフィックスにより、トンネル状分子レベル空間の解析を行い、その結果、チャンネルのポケットが不斉認識に重要な役割を担っていることがわかった。重合反応においては、プロキラルモノマ-のかさ高い基がこのポケットに入り、不斉誘導につながるのであろう。 3.従来測定の困難であった共役ジエンモノマ-の生長ラジカルが包接状態では高安定になるために、ESRスペクトルを容易に得ることが可能になった。分子レベル空間の大きさに依存して、そのスペクトルが大きく変化する場合があり、これはそのラジカルの運動性が異なっているためであることがわかった。この生長ラジカルと重合反応速度あるいは反応の立体選択性とは密接な関係のあることがわかった。
|