水溶性高分子を架橋したハイドロゲルの体積相転移は温度、溶媒組成、イオン強度等のゲルの周りの様々な環境の変化により引き起こされ、これにより種々の物性が不連続的に大幅に変化する。このためスイッチ機能性材料として様々な応用が期待されているが、そのためには相転移のパタ-ンとその速度並びにゲル内での物質移動速度の解明が不可欠である。そこで本研究では、ゲルの相転移に関する平衡及び速度論に関するこれらの基本的問題を分子設計の見地から明確にすることを試みた。 非イオン性のNーイソプロピルアクリルアミド(NIPA)ゲルを用いて種々の有機溶媒中で膨潤平衡を測定した。膨潤体積は溶媒種に大きく依存し、溶解度パラメ-タを用いてある程度相関されることが判明した。また、NIPAゲルのN置換基をnープロピル基(NNPA)およびシクロプロピル基(NCPA)に換えたゲルの膨潤平衡を測定したところ、NNPA→NIPA→NCPAとN置換基の広がりの減少とともに転移温度が上昇し、NCPAでは連続的な変化となった。また、NIPAとNNPAゲルについて準弾性光散乱により相転移の動的過程を測定し、見かけの拡散系数はNNPAがNIPAより大きな値を示した。これらの結果は、疎水性置換基の広がりの減少とともに、疎水性相互作用の駆動力が小さくなることに起因すると考えられる。 次に、荷電ゲルを対象として荷電基濃度の高い数種のゲルを合成し、外部溶液のイオン強度と膨潤平衡の関係を検討した。疎水性の大きなスチレン系のゲルでは外部溶液のイオン強度の増加に伴う荷電基の解離性の減少により不連続な収縮がみられたが、親水性のアクリルアミド系ゲルではその収縮は連続的であった。これは、疎水性会合による凝集力と荷電基間の静電反発力のバランスが荷電基の解離状態により変化することに起因するためと推定された。
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