火力発電所などから排出される大量の炭酸ガスを、微細藻類の光合成能を利用して吸収・固定し、細胞内に蓄えられた炭水化物を微生物機能を利用して変換することによって、水素を生産する方法について検討した。今年度は、煙道から排出される炭酸ガスを直接吸収法により分離することを前提として、海産性の微細藻類の増殖および水素生産に対する高濃度炭酸ガスの影響を調べた。 緑藻は、光照射期間に炭酸ガスを固定してデンプンを蓄積し、暗嫌気条件下で水素を発生する。この現象を利用した水素生産システムが、12時間/12時間の明暗サイクルの中で安定に働くことを実証した。水資源有効利用の観点から、海産性の藻類に着目し、光合成能および水素生産能がともに高い緑藻(MGA161株)を分離した。分離株は、他の微細藻類や光合成細菌とともに、平成2年度補助金によって購入した照明付き低温恒温器内に安全に保存されている。 緑藻、珪藻など、約10株の増殖に対する高炭酸ガス濃度の影響は、藻株によって異なり、多くの場合、増殖速度の低下やlag timcの延長など、負の効果が認められた。我々の分離したMGA161株は、15%CO_2通気条件下でも、通常の培養時と変わらぬ増殖を示した。このとき、細胞のデンプン、脂質、クロロフィル含量は、通常の細胞のそれらと大差なかった。しかし、これに低温(15℃)条件の加わった複合ストレス条件下では、細胞のデンプンおよび脂質含量が顕著に増加した。この複合ストレス条件下で増殖した細胞を、30℃、暗嫌気条件で醗酵させたところデンプンの分解が促進され、水素発生量が顕著に増加した。 我々の分離した緑藻は、煙道ガスから直接炭酸ガスを固定し、有効利用を計るための生物学的モデルとして用いることができる。
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