体細胞胚に種子同様の乾燥耐性を付与することは人工種子への応用だけでなく、遺伝子源の保存や種子の持つ乾燥抵抗性の解明等基礎および応用面での利用価値が高い。本研究はアブラナ属作物(ブロッコリー、白菜、ナタネ)の花粉由来胚を用い、アブサイシン酸(ABA)処理による乾燥耐性の獲得および乾燥耐性胚のタンパク質の分析とABAに誘導される遺伝子の単離を試みた。胚は乾燥処理により水分含量が10%前後になり、ABA処理により乾燥耐性を獲得した。乾燥耐性の獲得は胚のサイズおよびABA濃度と密接に関係し、遺伝子型にはほとんど影響されなかった。10^<-5>〜10^<-4>MのABA処理により子葉胚では41〜53%の植物体再生率を示した。しかし、ABAの最適濃度は種によって若干異なり、ブロッコリー・ナタネは10^<-4>M、白菜は10^<-5>Mの時最高の乾燥耐性を獲得した。一方、ABA無処理の胚は乾燥処理によりすべて枯死し、また球状胚はABA処理によっても乾燥耐性を獲得することができなかった。胚は浸透ストレスによっても乾燥耐性を獲得したが、その頻度は低く、浸透圧は直接乾燥耐性には関与していないことが推察された。乾燥胚から再生した植物を非乾燥胚から再生した植物と比較したところ、形態および倍数性について差は認められず、乾燥処理による変異は生じなかった。乾燥耐性のある胚は室温条件下で、現在までの調査のところ6カ月間植物体再生能を保持し、種子同様に長期貯蔵性の可能性があることが示唆された。 ABAによる乾燥耐性の機構を解明するため、胚のタンパク質を分析したところ、ABA処理による種子貯蔵タンパク質の増加(SDS電気泳動、ウェスタンブロット)および新しいタンパク質の合成(二次元電気泳動)が認められ、これらのタンパク質が胚の乾燥耐性に関与している可能性が推察された。一方、ABAで誘導され乾燥耐性に関与している遺伝子を単離するため、ABA処理胚からcDNAライブラリーを作成し、Lea遺伝子をプローブとしてスクリーニングを行った。その結果、6個のクローンが得られ、現在それらの構造解析を進めている。
|