1.研究の目的と計画:ライムギ細胞質を有する六倍性コムギChinese Spring((cereale)ーCS)には、“midget"と呼ばれる非常に小型の染色体が存在する。本研究では、この染色体の分子構造・機能及び遺伝子を蛍光in situハイブリダイゼイション法(FISH)から調べた。また、パルスフィ-ルド電気泳動法によるmidget染色体の分離とDNAサイズの推定を試みた。 2.研究結果:Midget染色体は、その細胞質親であるライムギから由来したと考えられている。本研究ではこのことを検定する目的で、ライムギのゲノミックDNAをビオチンでラベルし、コムギのゲノミックDNAと混合してからFISHのプロ-ブとして使用した。その結果、コムギ染色体にもハイブリダイゼイションが起こっていたが、midget染色体により高いシグナルが検出された。また、すでにクロ-ン化されているDNA塩基配列をプロ-ブとしてFISHを行ったところ、ライムギ由来の反復配列(120ーbpファミリ-)の存在が確認された。さらには、midget染色体両端のテロメア構造が、シロイヌナズナのテロメア反復配列をプロ-ブとしたFISHから示された。しかしながら、リボソ-ムRNA遺伝子やライムギ染色体のテロメア近傍の反復配列(350ーbpファミリ-)は、その存在が認められなかった。顕微鏡による観察から、midget染色体はシロイヌナズナの染色体(DNAサイズ:17〜23Mb)よりも小型で、そのDNAサイズは10〜15Mbほどであると推定された。そこで、(cereale)ーCSから調整したプロトプラストをアガロ-スに包埋し、CHEFパルスフィ-ルド電気泳動を試みた。パルスタイムを30分から2時間30分と変化させ、10日間泳動をおこなった場合、分裂酵母およびアカパンカビの染色体DNA(3.5〜10Mb)では移動・分離が見られたが、midget染色体の移動は起こらなかった。
|