異質細胞質を有するコムギの細胞質置換系統には、細胞質親由来の染色体をたえず保持する系統がある。これら添加染色体には、その細胞質の機能維持に不可欠な遺伝子が座乗していると考えられている。本研究では、ライムギ細胞質を有する普通系コムギ(cereale)ーCSに存在する小型染色体(midget)を対象とした。これは、この染色体にライムギの細胞質と相互に作用する遺伝子が存在していること、およびそのサイズが他の植物染色体に比べて極端に小さいことによっている。このmidget染色体に座乗する遺伝子を検索するために、我々はゲノミック・サブトラクション法を用い、現在までこのmidget染色体に特異的と思われる塩基配列を2種クロ-ン化することに成功した。また、ライムギの葉緑体DNAに特異的な塩基配列も1種クロ-ン化した。さらに、蛍光in situハイブリダイゼイション法を用いて、このmidget染色体がライムギの染色体(1Rと考えられる)から由来したこと、ライムギのテロメア近傍に存在する反復配列(120ーbpファミリ-)を含んでいること、またこの染色体の両端にはテロメア構造が存在することを明かにした。 現在さらに、これらDNAマ-カ-を使い特定遺伝子の同定をおこなわんとして研究を進めているが、いかに小型とはいえ、そのDNAサイズは10メガ塩基対(Mb)をこえており、遺伝子のクロ-ニングは容易ではない。しかしながら、このmidget染色体が由来したと考えられているライムギ1R染色体は、その有用性から分子生物学的な研究が進んできており、マ-カ-となるDNAも畳積し始めている。これらのマ-カ-が有効に利用でき、さらには巨大DNAをクロ-ニングできる酵母人工染色体(YAC)ベクタ-などの技術が導入できれば、座乗する遺伝子、さらにはmidget染色体の全体像を分子レベルでとらえることも可能になると思われる。
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