研究概要 |
植物集団内の遺伝的分化,特に周縁効果(集団の中心部に比べて周縁部で特に強く現われる現象をいい,本研究では,周縁部における遺伝子型分布の団塊化程度と中心部のそれとの差で示した)の発現に及ぼす他殖率,花粉の飛散距離,および種子の拡散距離の影響を,モンテカルロ・シュミレ-ション法によって解析し,現時点までに以下の知見を得た。 周縁効果は,他殖率が高い場合の方が顕著に現われる。花粉の飛散距離に関しては,隣接個体間の距離を単位にして2〜5のときに周縁効果が最も明暸に現われる。種子拡散の影響については,拡散距離が1をこえると,周縁効果の発生が強く抑えられる。要するに,集団内にある程度の遺伝子拡散があった場合の方が,周縁効果が出やすいといえる。 タイ中央平原から採取した野生イネ2集団(1つは,典型的多年生型で,撹乱される機会が比較的少ないと思われる場所から採取,他方は,雑草型多年生型で,撹乱が激しいと思われる湿地から採取)を用いて,アイソザイム変異を解析し,以下の知見を得た。 他殖率については両集度ともかなり大きな値を示し,それぞれ0.51と0.56であった。両集団は他殖率に関してはほぼ同じであったが,近交係数に関しては,それぞれ0.25と0.75と大きな差を示した。また,集団内の遺伝子型分布の状態についてみると,前者の集団では,遺伝的に以た個体同志が近接して団塊状に存在している傾向が後者の集団よりもはるかに顕著であった。このことは,前者の集団では撹乱が少ないため,栄養繁殖の程度が後者の集団よりも高いためであると解釈される。
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