研究概要 |
固着性であるため集団内の遺伝子流動が制約されている植物においては,集団を構成する個体の分布の形や密度などが集団の遺伝構造や遺伝的分化の程度や方向に大きな影響を与えるものと予測される。本年度は,個体密度が中心部から周縁部に向って次第に減少する一次元集団を前提として,自殖志向型遺伝子型(他個体からの飛来花粉量が少なくても十分高い稔性を達成する遺伝子型)と他殖志向型遺伝子型(他個体からの花粉量が少ないと稔性が著しく低下する遺伝子型)が,はじめの均等に分布する状態から,十分多くの世代を経た後の平衡状態でどのような分布をとるに至るかを決定論的に解析し,以下の知見を得た。 1)平衡時の集団の遺伝構造は,モデルにとり入れた変数の値の組合せによって、大きくいえば4つのタイプ,すなわち,他殖志向型遺伝子型が全体を占める場合,他殖志向型と自殖志向型が混在する場合,他殖志向型が中心部に自殖志向型が周縁部に住み分け的に共存する場合,および,自殖志向型が全体を占める場合に分けられる。 2)花粉の拡散距離は上記伝構造の違いに決定的な影響を与えるが,種子拡散の影響は比較的軽微である。 3)集団の大きさ(個体数)は,個体の分布形状と並んで,上記遺伝構造のタイプの違いをもたらす要因の1つである。このことは,植物集団においては集団の大きさは,ランダムドリフトだけでなく,定向的な遺伝的変化・進化の決定要因としても作用することを示す。 遺伝構造の決め手となる個々の変数の作用,および変数間の仂き合いの詳細については,次年度において順次明らかにしていきたい。
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