研究概要 |
初年度の調査地は、千葉県北西部の江戸川低地部、山形県庄内平野、長野県伊那谷駒ケ根、北海道道央・道東等であった。北海道における調査は、本州からの入植の際に本州各地の樹種が持ち込まれ、これを用いてクネや高垣を設けたのではないかという仮説を検証することが目的であった。しかし、本州との気候の差異のためか、樹種の生育がクネ状の防風林を構成するほど充分ではなく、本州産の樹種(マツ・スギ等)が寺社や公共施設の周囲に点在する程度であった。長野県の伊那谷に南北に走っているため、南(および北)の風が強く、南北に縦長の住棟が建てられる。そしてその家屋を守るための防風・防雨の高垣「しぶきよけ」が樹木で構成されるのである、伊那ではヒノキ,サクラ,イチイが使われている。最も特徴的と思われるものとして伊那地方のクネの形態である、南北方向(とくに南)の風に強いように、南と北に家屋のツマが位置する建て方をする。この地方の高垣は、このツマの形にあわせたような三角形を呈する。山形県の庄内地方は、伊那や千葉県北西部のような散村型の集落ではないが、集村と平野部(水田)との境目の部分にアスナロ,スギ,サクラ,を使ったクネがみられた。形態には目立った特徴はなく,短形である。クネは概して低地,水,風のあるところに発生する。クネは元来,生産と生活の場を風雨その他の害から守るためのもの、いいかえれば農地と宅地(クネの場合は宅地の方に重点がおかれるが)に対する自然の影響力を緩和させる装置である。気象条件は、地方によってさまざまであり、それに対処する人間の技術も多様であろう。クネは土地の自然条件(気象,樹木の適合性)と文化条件(農法,慣習,産業構造など)がクにスするところに存立しうる(本調査の限りにおいて)という知見を得た。
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