本研究は、江戸後期の都市の緑の分析から当時の緑のデザイン原則をあきらかにし、もって現代の都市緑化デザインのヒントを得ようとするものであるが、本年度は主として図会等の資料収集をおこなった。 その資料の分析の結果、当時の緑の立地特性が次のとおり明らかになった。 (1)御用地、公共用地よりも、武家地、町人地に緑が多く、私有地が都市緑化上大きな役割を担っていた。 (2)武家地以外の緑はほとんどが水辺に存在していたが、それらは水辺の景観向上に寄与していた。 (3)緑は無原則に存在するのではなく、以下のような都市の重要な場所に限定的にあった。 (i)主要道の分岐の角地、水路の合流・分岐点、渡し場など交通の要所 (ii)番屋、橋詰、小祠など公共性の強い場所 (iii)遊興地や景勝地などの名所 (iv)城郭や治水土手など、都市機能上重要な場所 従来豊かであると言われてきた江戸の緑は、その大部分が大名屋敷内など一般の目には触れないもので、公共性の高い空間ではむしろ意外と少なかった。しかしながら要所に立地しており、量的不足を補うような効果的植栽であったと考えられる。 次年度は、資料の分析を進め、効果的植栽のための配置場所の原則、立地に応じた樹形や樹格の選択の規範、多数の緑が一定の秩序を保ちつつ多様であるための都市全体のル-ルなどが如何であったかを明かにする予定である。
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