本研究は、江戸後期の都市の緑の分析から当時の緑の実態を明らかにしようとしたものであり、本年度は当時の緑のデザイン特性の分析をおこなった。 その結果、植栽のデザイン特性は次のようであった。 (1)現在普通に用いられる列植(街路樹、川沿いの並木等)は、殆どなかった。あるのは、江戸城の城郭施設、寛永寺や増上寺などの将軍家菩提寺など格の高い場所(以上マツ)、柳原の土手(ヤナギ)のみであった。樹形も現在の街路樹のような通直、整形、等形ではなく、模様がついた非整形で、大きさも不揃いな不等形なものであった。筋違御門脇のようにマツとヤナギの混植もあったが、樹種の混合は近代並木では見られないものである。 (2)群植は寺社地などスペ-スに余裕のあるところに見られるが、寺社自体が都市の要所(河川や道のの分岐、台地の縁や上、名所など)の目立つところにあったため、その植栽もまたよく目立った。 (3)単植が最も多かったが、番屋などの建物や橋や井戸の添えがほとんどであった。それらも都市の要所といってよい。 場所の特性と樹種には相関があり、例えば、 (1)マツの列植は先述の江戸城など格の高い場所のみに見られた。 (2)ヤナギは水辺(橋の袂、土手、船着等)と遊廓(花柳界)のみに見られた。 当時の緑は公共性の高い空間では意外と少ないことが分かったが、しかしながら少ない緑は要所に立地しており、量的不足を補うような効果的植栽であったと考察される。
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