1。キジラミ科のなかでもカイガラキジラミ属(celtisaspis)の幼虫は一部シロカイガラムシの介殼の外見上酷似した被覆を作る。日本産2種のうちC.usubaiについて幼虫体と被覆を走査型電子顕微鏡を用いて観察し、被覆形成の過程を調べた。完成した被覆は肛門から排出されたと推定される物質の中に扁平なワックス・フィラメントの断片が混入しており、この点シロカイガラムシ科の介殼よりはカイガラムシ上科の他の1科Conchaspididaeの被覆に類似している。しかし、ワックス・フィラメントの分泌器官の構造はこれらのカイガラムシとは全く異なり、一個の器官からは扁圧されたフィラメントが周辺部に5枚(ほかに中心部に不定数)分泌される。これらのフィラメントは組み合わせて五角形の筒となって伸長するが、被覆に組み込まれるときには筒は虫体背面に圧されて分解し、フィラメントは長さが不規則な断片となる。今回の研究によって、これら同翅目昆虫は外見上類似した被覆を作るにかかわらず、被覆の形成過程において異なり、それぞれ独特の方法を採用していることが明かとなった。 2。シロカイガラムシ科シロカイガラムシ亜科8属の原始的形態について介殼の微細構造を走査型電子顕微鏡を用いて観察した。これらの属は雌成虫の形態において異なる進化的段階にあり、最初の2段階にある6属は同一族に所属することをもって系統的にも関係があると考えられる。この観察によってこの亜科における介殼形成の進化の初原的状態と趨勢を明かにし、昭和63年・平成元年度科学研究「植物固着寄生性微小害虫の外覆物質分泌器官の微細構造と外覆形成過程の比較研究」(一般研究A、課題番号63440009)における成果の一部と合わせて、円筒状のワックス・フィラメントよりなる綿絮状態より出発し、扁圧されたフィラメント用い虫体の回転運動による作られる膜質被覆に至るシロカイガラムシ科における介殼形成の進化の概要を明かにすることができた。
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