1.シロカイガラムシ科の主要部分は臀板付属突起の構成によって2系統群といくつかの進化段階に大別されるが、これらの区分を他の形質から確かめる目的で、選抜された19種のシロカイガラムシについて盤状分泌器官の微細構造を走査型電子顕微鏡で観察した。これによって群・段階間の関係を明確にし[論文発表済み]、介殻形成の進化を検討する寄り処を得た。また、シロカイガラムシの介殻に外見上類似した被覆を作る同翅目が少なくとも2科(キジラミ科とカイガラムシのConchaspididae)あるので、比較のためこれらも研究対象とした。 2.Conchaspididaeの被覆は破砕されたワックス・フィラメントをアモルファスな肛門排泄物質で固めた一種のコンクリートでできていることを初めて明かにした[論文発表済み]。カイガラキジラミの完成された被覆も同様な内部構造を示すが、分泌器官の構造は全く異なり、ワックス・フィラメントは五角形の筒に組み合わされて分泌された後破砕されるという特異な現象が発見された。 3.この結果、シロカイガラムシ科の介殻はワックス・フィラメントを破砕しないで用いる点で特色があり、このことが介殻形成の際の虫体運動の発達と運動様式の変化と組み合わさって多様な介殻を進化させた要因である、と結論された。(1)科の初原的な形態では臀板は付属突起を欠き、ワックス・フィラメントは円柱状を呈し不動の虫体上で綿絮塊となる。(2)原子的な臀板付属突起を有する段階に至って分泌器官は科特有の形態を持ち、扁平なワックス・フィラメントを分泌する。フィラメントが肛門排出物質で固められて介殻は一定の形状をとるが、この段階ではいまだ多様性に乏しい。(3)虫体が振動をおこなう段階で介殻の形態的多様性が増大し、回転運動をおこなう段階で膜質円形の介殻が出現する。進化のこの趨勢は多元的に起こっており、強力な適応的意義を示唆する。(4)この趨勢に一致せず、不動の虫体が円筒形のフィラメントを体上に伸長させる1属が発見された。この属がシロカイガラムシ科の放散の遺存形態であり、介殻形成についておこなわれた試行錯誤の存在を示すとする見解は可能であり、シロカイガラムシ科の進化的成功が介殻形成の方法の選択と密接に関わっているとする本研究の結論を支持するものである[一部論文発表済み]。
|