1982年にチュウゴクオナガコバチを放飼した熊本県大津町のクリ園において、前年に引続きクリタマバチのゴール密度と寄生率の調査を行った。ゴール着生芽率は前年(60.5%)より増加し76.1%であったが、寄生率は前年(30.3%)と大差なく33.4%であった。しかし寄生率の内訳を見ると、チュウゴクオナガコバチとクリマモリオナガコバチの合計では前年(5.0%)より著しく増加し10.9%に達した。 福岡市油山で1981年に放飼されたチュウゴクオナガコバチは、今年度の調査によって分布が更に拡大したことが判明した。福岡県内では放飼地点から北東に少なくとも約40km、更に佐賀県では大和町(放飼地点から南南東約25km)で分布が確認された。調査した両県下45地点中13地点で、100ゴール当たり羽化雌数が10頭以上に達していた。 チュウゴクオナガコバチ未放飼地の宮城・岡山両県下において、前年度以来土着天敵の調査を行った結果、宮城県で3種、岡山県で8種の寄生蜂が認められた。調査地当たり平均種数はそれぞれ1.5種と3.7種であり、全調査地点でクリマモリオナガコバチが最優占種であった。しかしその優占度は宮城県で平均98%、岡山県で83%と、宮城県で著しく高かった。これらのことから、宮城県では寄生蜂相が極めて単純であり、岡山県では複雑であることが判明した。またクリマモリオナガコバチの終齢幼虫〜蛹期の死亡率は、宮城県で平均60%、岡山県で78%であり、岡山県では熊本県の場合と同様、隨意的高次寄生者の有害な作用が大きいものと考えられた。 以上のことから、宮城・岡山両県下で将来チュウゴクオナガコバチが放飼された場合、宮城県では短期間のうちに放飼寄生蜂の密度が増加しうるが、岡山県では福岡・熊本県の場合と同様、隨意的高次寄生者の二次寄生によって放飼天敵の増殖が抑制されることが予測される。
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