われわれは、これまでにコメの主要アレルゲン蛋白質について研究し、その主要成分は分子量約14000〜16000の一群の水溶性蛋白質であることを明らかにしている。本研究は、このアレルゲン蛋白質が米粒中にどのような状態で存在するかを明らかにすることを目的としたものである。実験は登熟期のイネ種子摩砕物をショ糖密度勾配超遠心分離機によって、多数の画分に分け、それぞれの画分を解析することによって行った。すなわち、各画分のすべてについては、SDSーポリアクリルアミド電気泳動とウェスタンブロットを行い、単クロ-ン抗体を用いてアレルゲン蛋白質の検出、同定を行った。その結果、アレルゲン蛋白質は低密度のミクロソ-ム画分にのみ検出され、コメの主要貯蔵蛋白質であるプロラミンやグルテリンとは異なる画分に含まれることが明らかとなった。このことは、プロラミンやグルテリンとは異なり、本アレルゲン蛋白質が胚乳中のプロテインボディには含まれず、小胞体に存在することを示唆するものであり興味深い。この点をさらに確かめるために、米粒蛋白質の抽出性におよぼす超音波処理の影響について実験を行った。その結果、一定条件での超音波処理を旋すことにより、粉砕された米粒のみならず、インタクトな米粒からもアレルゲン蛋白質は、可溶化、抽出されることが明らかとなった。この場合に抽出されるアレルゲン蛋白質の量は、抗体を使った免疫学的手法を用いることにより全量の約90%近くであることが明らかになった。一方、このような大量のアレルゲン蛋白質の抽出が行われるにもかかわらず、プロラミンやグルテリンの抽出はほとんど行われなかった。また、このことは同時に行った走査電顕を用いた観察によっても確められている。以上の知見は、学問的に興味あるばかりでなく、米粒を処理してその低アレルゲン化を考える場合においても極めて貴重なものと思われる。
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