昨年度、細菌胞子の発芽過程に関与する可能性の高い蛋白質成分として、B.cereus胞子よりズブチリシン様プロテア-ゼとペプチドグリカンを分解するコルテックス分解酵素を部分精製した。本年度はこれらの酵素が発芽特異的であるか否かの検討と共に、蛋白化学的研究を行った。分子量24000のコルテックス分解酵素を均一成分として単離した。本酵素は胞子に結合した状態では熱・酸・アルカリ等に対しても安定であったが、遊離状態では著しく不安定であり、高イオン強度かつ非イオン性界面活性剤を含む媒質中で比較的安定であった。スポアコ-トを除去した発芽し得ない胞子に本酵素を作用させると、コ-ト除去胞子でも発芽と同様なダ-クニング現象が生じ、本酵素が発芽特異的コルテックス分解酵素であることを強く示唆した。アミノ末端より22残基のアミノ酸配列を決定したが、その配列は報告されている細菌細胞壁分解酵素のそれらとは異なっていた。更に、本酵素と類似した性質を持つ分子量26、000のコルテックス分解酵素をCl.perfringens S40の胞子からも部分精製し、発芽機構に差異があると考えられている菌種に共通のコルテックス分解酵素の存在が示唆された。一方、発芽に関与すると考えられたズブチリシン様酵素は、本酵素活性を失活させた胞子でも発芽が正常に起こることから発芽との関与は否定された。しかし、この胞子結合性のズブチリシン様酵素は既知のズブチリシンとは分子量、アミノ酸配列、阻害剤に対する感受性等で著しく異なっている新奇のプロテア-ゼであった。現在、抗体を用いてコルテックス分解酵素の胞子内での存在部位、活性化機構などの解析、その活性化を担うプロテア-ゼの検索を進めている。それと並行して、発芽のトリガ-反応に関与するアラニンリセプタ-の同定も試みつつある。
|