耐熱性芽胞細菌による食品の変敗防止は食品工業における克服しなければならない課題である。そのためには、芽胞細菌の発芽を現象面でのみ捉えるのではなく、その機構を分子レベルで理解することが重要である。発芽始動にはプロテア-ゼと胞子コルテックス分解酵素の関与が示唆されており、B.cereus胞子を用いてそれら酵素の同定並びに性質を明らかにすることを主要な研究目的とした。胞子の発芽により媒質中にプロテア-ゼとコルテックス分解酵素が遊離した。遊離プロテア-ゼはズブチリシンに対する阻害剤の添加により失活し、それと同時に発芽自体も阻害された。これらの事より、ズブチリシン様プロテア-ゼの発芽への関与が示唆されたが、種々検討した結果、本酵素を変性させた条件下でも発芽することから発芽への関与は否定された。しかしながら、精製された2種類の胞子結合性ズブチリシン様酵素は既知のズブチリシンとは異なる性質を持つ新奇のプロテア-ゼであった。一方、分子量24000のコルテックス分解酵素を単一成分として単離した。本酵素は胞子結合状態では安定であったが、遊離状態では著しく不安定であった。スポアコ-トを除去した発芽しえない胞子に本酵素を作用させると、コ-ト除去胞子でもインタクト胞子の発芽と同様なダ-クニング現象が生じ、本酵素が発芽に特異的なコルテックス分解酵素であることが強く示唆された。アミノ末端アミノ酸配列は、既知の細胞壁分解酵素のそれらとホモロジ-は認められなかった。また、本酵素と類似の性質をもつ分子量26000のコルテックス分解酵素をCl.perfringens胞子からも部分精製した。現在、抗体を用いてコルテックス分解酵素の胞子内での局在部位、プロテア-ゼによる活性化機構とそれを担うプロテア-ゼの検索などの研究を進展させつつある。本期間中に胞子形成の分子論的研究を行うには至らなかった。
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