生体酸化還元反応に必須な多機能電子伝達蛋白質であるフェレドキシン(Fd)は同一植物内に多分子種として存在する例が知られている。トウモロコシには器官や組織で分布が異なる4分子種のFd(FdIからIV)が存在し、これらの分子種は異なる遺伝子でコ-ドされる相同な蛋白質ファミリ-であることを証明した。これらの中で、FdIとFdIIIに対応するcDNAのクロ-ニングが完了し、前駆体構造が判明した。葉緑体に存在するFdIの前駆体延長ペプチドの構造と根プラスチドに存在するFdIIIのそれとが全く異なるが、共に葉緑体への移行シグナルとなり、しかも、オルガネラ内部でFdの酸化還元中心の鉄・硫黄クラスタ-が導入されることを明かにした。また、遺伝子の発現を転写レベルで解析し、FdIは葉器官特異的で光誘導を受けること、FdIIIは器官非特異的で光誘導を受けないことが示された。 これらのFdの生理的機能を調べるためには十分量の精製Fdが必要となるが、FdIIIの存在量が極めて少なく、生化学的解析が限定されていた。これを解決すべく、この遺伝子を操作して大腸菌で発現できるプラスミドを構築し大量調製を可能とした。これを用いて電子伝達蛋白質としての機能を解析し、FdIは光合成系でFdIIIは非光合成系で働くのに適した性質を備えた分子種であることを明かにした。これは、両者のFdの遺伝子発現の特性と生理的な機能分担が合目的に説明でき得るものである。また、この機能の差異が活性中心の鉄・硫黄クラスタ-近傍の蛋白質の立体構造に起因する可能性を指摘できる結果も得た。
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