食品には有毒な過酸化脂質が含まれているが、生体はそれに対する防御手段を持っており、消化管もその一つと考えられる。本研究では、脂質過酸化物としてリノ-ル酸ヒドロペルオキシドを用い、これをラットに経口投与し、経時的に消化管内での変化を追うことによって、消化管の過酸化物に対する解毒能力を調べた。 (1)ヒドロペルオキシドとその分解物を消化管から定量的に抽出し、定量する方法を確立した。抽出時の分解を避けるために、抗酸化剤を兼ねた内部標準物質としてトコフェロ-ルを、安定な抽出溶媒としてヘキサン:エ-テル(4:1)を用いた。抽出物の同定と定量は逆相と順相のHPLC分析を組合せて行なった。ヒドロペルオキシドは233と210nmの吸収、及び電気化学的に還元力を有しているが、分解物はこのいずれかの性質を失っているので、これらの検出比から個別定量した。 (2)日常摂取する可能性のある量(2mg)のヒドロペルオキシドは、30分以内に胃内で消失した。60mgを投与すると、30分後の胃内での残存率は19%で、2時間後には消失した。この時、一部が還元されたヒドロキシ体として小腸から検出された。多量(200mg以上)を投与すると、小腸から少量が検出され、ラットは15分後に下痢を起こした。また、糞、尿及び血液からヒドロペルオキシドもヒドロキシ体も検出されなかった。 (3)ラベルした物を投与すると、2時間後でもそのアイソ-プの73%が胃に残存しており、上の検出値と一致しなかった。ヒドロペルオキシドは胃内で速やかに変化すると考えられ、変化した物質をトランスジエンを有したヒドロキシ脂肪酸の誘導体と推測した。 以上の結果から、動物の消化管は日常摂取する程度の量の過酸化物は容易に解毒でき、間違って多量を摂取しても、下痢を誘発して体外に排泄するため、ヒドロペルオキシドは体内に吸収されないと結論した。
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