食品には有毒な脂質過酸物が含まれているが、生体は防御手段を持っており、消化管もその一つと考えられる。本研究では、まずリノ-ル酸ヒドロペルオキシドをラットに経口投与して、消化管内の過酸化物の分析方法を確立した。次にトリリノレインのヒドロペルオキシドを経口投与し、消化管の脂質過酸化物に対する解毒能力を調べた。 1.消化管からリノ-ル酸ヒドロペルオキシドとその分解物を定量的に抽出し、HPLCで個別に定量する方法を確立した。また、ラベルしたものを用いてトレ-サ-法でこの測定を繰り返した。その結果から、動物の消化管は少量のリノ-ル酸のヒドロペルオキシドは容易に解毒でき、多量を摂取しても、下痢を誘発して体外に排泄するため、過酸化物は体内に吸収されないと結論し、昨年度の実績報告書に述べた。 2.本年度は、我々が摂取する脂質の形態であるトリリノレインを光増感酸化させ、過酸化物価が800のものをラットに経口投与し、経時的に消化管内の過酸化物を定量した。我々が日常摂取する可能性のある量、6mg投与では、投与後4時間で30%のヒドロペルオキシドが胃内に残存しており、60mgでは80%が残存していた。リノ-ル酸の過酸化物は投与後30分で分解されたが、トリリノレインの過酸化物の分解は著しく遅かった。 3.投与したトリリノレインの過酸化物の0.03%が、加水分解を受けたリノ-ル酸ヒドロペルオキシドとして胃から検出された。しかし、空腸からは過酸化物は検出されなかった。 4.SH基の阻害剤である塩化第二水銀をあらかじめ投与したラットに過酸化物を投与すると、過酸化物の分解は認められなくなった。 そこで、トリリノレインの過酸化物の胃内での分解はリノ-ル酸のそれに比べて遅いが、過酸化物が空腸に移り、体内に吸収されることはないと結論した。また過酸化物の分解は胃内のSH化合物によると考えた。
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