食物中の脂質は、容易に空気中の酸素によって過酸化され、有毒な脂質過酸物を生じる。私達の日常の食品には、微量ではあるが過酸化物が含まれている。しかし生体は防御手段を持っているはずであり、消化管もその一つと考えられる。平成2度は、脂肪酸の過酸化物であるリノール酸ヒドロペルオキシドをラットに経口投与し、消化管からの定量的検出法を確立し、過酸化物の消化管内での量的変化を経時的に追うことによって、消化管の過酸化物に対する解毒能力を調べた。過酸化物は胃内で消失したので、動物の消化管は日常摂取する程度の少量の過酸化物は容易に解毒する。間違って多量を摂取しても、下痢を誘発して体外に排泄するため、過酸化物は生体内には吸収されないことを明らかにした。 一方、食物に含まれる脂質の多くはトリアシルグリセリドであるので、3年度の研究では、トリリノレインのヒドロペルオキシドに対する消化管の解毒能を調べた。解毒速度はリノール酸の過酸化物の場合に比べて遅いが、トリリノレインの過酸化物も胃内で分解された。またSH基の阻害剤でこの解毒能は失われた。しかし、分解で生じた低分子のアルデヒド類は体内に吸収され、肝毒性を発現することを知った。 平成4年度は、栄養状能の違いで、消化管の解毒能力がどのように変わるかを調べた。ラットを高蛋白食(カロリーの約60%が蛋白質)あるいは高脂肪食で4週間飼育し、普通食で飼育した場合と、消化管のトリアシルグリセリドの過酸化物に対する解毒能力を比較した。栄養状態によって解毒速度は異なるが、いずれの栄養状態でも、トリアシルグリセリドの過酸化物は、胃内でリパーゼにより脂肪酸の過酸化物に加水分解され、その後グルタチオンペルオキシダーゼなどのSH基を利用する酵素で解毒され、空腸には移らず、体内には吸収されない。しかし分解物のアルデヒド類は吸収され、肝臓で毒性を発現すると結論した。
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