研究概要 |
昆虫(イエバエ)の変態過程におけるフェノ-ルオキシダ-ゼ活性調節機構を分子レベルならびに、細胞生物学的に解明することを目的とした。(1)イエバエ前蛹中から、一坦ラテントフェノ-ルオキシダ-ゼ複合体を精製した後、プロフェノ-ルオキシダ-ゼを解離させ、ついで、ショ糖密度勾配超遠心離およびゲルろ過により、ほぼ均一なプロフェノ-ルオキシダ-ゼ標品を得ることができた。(2)イエバエ成熟蛹の表皮に存在するクチクラフェノ-ルオキシダ-ゼが、表皮に固く結合した状態で存在することを見い出し、その酵素化学的特性を調べた。ド-パを基質とした場合、そのkmは4.7mMであり、その基質特異性は体液フェノ-ルオキシダ-ゼとは異なることがわかった。また、クチクラフェノ-ルオキシダ-ゼは5〜25℃、pH7.0〜9.5の間で安定であり、その至適pHは9.0、至適温度は45℃であった。(3)幼虫末期から成熟蛹形成期にかけてのイエバエ体液中の生理化学的状態(種々のイオン濃度、水分)の変化を検討した。その結果、水分含量は幼虫から成熟蛹の時期にかけて減少し、逆に陽イオン(Na^+,K^+,Ca^<2+>,Mg^<2+>)の濃度は上昇することが明らかになった。特に、それらの変化は前蛹形成後の2日間が顕著であった。すなわち、その間に、急激な水分含量の減少にともなう顕著な陽イオン濃度の上昇が見られた。現在、それらイオン濃度の変化とフェノ-ルオキシダ-ゼ活性調節機構との関連を研究している段階である。 (4)イエバエの蛹からフェノ-ルオキシダ-ゼの阻害因子(インヒビタ-)の単離精製を行った。イエバエ蛹の粗抽出液から、加熱処理、60〜80%硫安分画、イオン変換クロマトグラフィ-、逆相高速液体クロマトグラフィ-を通して、電気泳動的に均一なインヒビタ-標品を得た。精製されたフェノ-ルオキシダ-ゼインヒビタ-はポリペプチドであり、拮抗的に、フェノ-ルオキシダ-ゼを阻害した。
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