昆虫(イエバエ)の変態過程におけるフェノ-ルオキシダ-ゼ活性調節機構を分子レベルならびに、細胞生物学的に解明することを本研究の目的とした。(1)ラテントフェノ-ルオキシダ-ゼの活性化機構を特に、その律速段階であるラテントフェノ-ルオキシダ-ゼ複合体からのファクタ-Nの解離機構を中心に調べた。複合体からのファクタ-Nの解離に及ぼす塩濃度の影響と変態過程に伴なうイエバエ体液中の塩濃度変化を比較検討したところ、ラテントフェノ-ルオキシダ-ゼ複合体の活性化は、昆虫ホルモンによる体液イオン濃度調節およびタンパク質の解離会合の2つの調節機構により、合目的に調節されていることが示唆された。(2)単離したラテントフェノ-ル複合体からプロフェノ-ルオキシダ-ゼを解離させ、ほぼ均一な標品にまで精製した。(3)イエバエ成熟蛹の表皮に固く結合したフェノ-ルオキシダ-ゼの存在を見い出し、その酵素化学的特性を調べた。特記すべきことは、その基質特異性が体液フェノ-ルオキシダ-ゼとは異なることであった。(4)幼虫体液に存在するフェノ-ルオキシダ-ゼとラテントフェノ-ルオキシダ-ゼ複合体が活性化して生じたフェノ-ルオキシダ-ゼの特性を比較検討したところ新たな知見を得た。すなわち両酵素はその分子量、サブユニット構造至適pH、至適温度、等電点、および反応速度論的特性の全てに関して非常に類似していることを示したが、Nー末端からのアミノ酸配列が2個のみ異なっていた。(5)イエバエ成熟蛹からフェノ-ルオキシダ-ゼインヒビタ-を単離精製した。精製されたインヒビタ-はポリペプチドであり、拮抗的にフェノ-ルオキシダ-ゼを阻害した。また、システインとグリシンに豊み、Nー末端はグルタミン酸であった。なお、このフェノ-ルオキシダ-ゼインヒビタ-は、昆虫界のみならず、無脊椎動物も含み、世界で最初に同定、単離されたものである。
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