糖蛋白質の細胞内転送機構を解析する手段として転送阻害剤の選択的阻害作用を利用した。現在知られている細胞内転送阻害物質は非常に限られているので、先ず阻害剤の探索と単離から研究に着手した。また、既に糖蛋白質の細胞内転送を阻害することを見い出したブレフェルジンAについても、その作用について解析を加えた。 糖蛋白質細胞内転送阻害剤探索系として、新たに考案した方法を採用した。ニュ-カッスル病ウイルス外被に存在する糖蛋白質の一つであるF(fusion)蛋白が細胞表層に転送されると細胞融合が誘起されて巨大な合胞体が形成されることから、合胞体形成阻害を指標として阻害剤の検索と単離を行なった。 多種多様な阻害剤が単離されたが、その多くがH^+ーATP分解酵素の中でも液胞型ATP分解酵素活性を選択的に阻害することを認めた。これら阻害剤存在下で細胞内に蓄積されるウイルス糖蛋白質糖鎖の構造を解析した。その結果、あるものはウイルス糖蛋白質の細胞内転送をゴルジに至る以前の転送段階で、あるものはゴルジ槽間の転送を阻害することが糖鎖構造から示された。液胞型ATP分解酵素は種々の細胞内オルガネラに存在するが、それらの感受性の差に起因することが示唆された。 ゴレフェルジンAで処理すると糖蛋白質細胞内転送は阻害されて小胞体に蓄積する。また、ブレフェルジンA処理でゴルジが消失しその構成蛋白質が小胞体にretrogradeに転送される。ブレフェルジンAによる転送阻害がanterogradeな転送の阻害に因るのかretrogradeな転送の誘起に因るのかを明らかにするために、retrogradeな転送が微小管依存性であることを利用して解析した。ノカダゾ-ル処理でウイルス糖蛋白質細胞表層出現が部分的に回復されることから後者の可能性が支持された。
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