研究概要 |
近年、酵素を触媒とする新しい省エネルギ-型微生物生産法の研究開発の試みが盛んである。我々が検討してきたニトリルヒドラタ-ゼによるアクリルアミドの生産法はすでに工業化が達成され、大量生産型の原料素材の生産にも酵素反応が利用できうることを示した点で画期的であった。そこで本検討において、応用的にきわめて有意義な本ニトリルヒドラタ-ゼの酵素化学的諸性質を明らかにし、そのコファフタ-および反応機構の解明の検討を試みた。Brevibocterium R312,Pseudomonas chlororaphis B23のニトリルヒドラタ-ゼは3価鉄をコファクタ-として含み,緑色で720km付近に極大吸収を示す。ESRを用いて本酵素の鉄の存在状態や本水和反応機構の解析を試みたところ、本酵素は典型的なrhombic型の低スピンFe(III)のESRスペクトルを示した(gmax=2.284,gmid=2.140,gmin=1.971)。ESRスペクトルや分光学的手法から、Fe(III)は基質ニトリルのbindingと活性化に関与していること、Fe(III)があたかもヘム環のように4方向からおそらきヒスチジンのイミダゾ-ル基の窒素原子と配位して保持されている事が予想された。またその軸結合位置の一方にシステインのイオウリガンド,その反対方向に水が配位しており、基質ニトリルの添加により、この水がニトリルと速やかに置換することが考えられた。さらにニトリルヒドラタ-ゼには、もう一つのコファクタ-.ピロロキノリンキノン(PQQ)あるいはその類縁化合物が含まれていることを明らかにした。さらにESRを用いた検討により、Fe(III)センタ-の近くにカルボニル基が存在し、これらが教能的に相関していることを強く示唆する実験結果を得た。今までに知られているPQQ酵素はすべて酸化環元酵素の範ちゅうに入る故に、水和酵素であるニトリルヒドラタ-ゼにPQQが含まれていることの意義は大きく、その新しい機能が本酵素反応機構に秘められていると考えられた。
|