研究概要 |
酵素を触媒とする新しい省エネルギ-型微生物生産法の研究開発の試みが注目されてきた。我々はニトリルヒドラタ-ゼによるアクリルアミドの生産に関する基礎的研究を長年に渡り検討し、既に本酵素を用いたアクリルアミド生産の工業化に成功した。本方法は大量生産型の原料素材の生産にも酵素反応が利用しうることを初めて示した画期的な研究として世界的な注目を集めている。しかしながら、このような応用的研究の進展に比べて本酵素の基礎的検討は極めて遅れていた。そこで我々は本課題としてニトリルヒドラタ-ゼのコファクタ-と反応機構に関して検討を加えた。Brevibacterium R312,Pseudomonas chlororaphis B23のニトリルヒドラタ-ゼは3価鉄を、Rhodococcus rhodochrous J1のそれはコバルトをコファクタ-として含む。ESRを用いて鉄型酵素の鉄の存在状態や本水和反応機構の解析を試みたところ、本酵素は典型的なrhombic型の低スピンFe(III)のスペクトルを示した。ESRや分光学的検討からFe(III)は基質ニトリルのbindingと活性化に関与し、Fe(III)があたかもヘム環のように4方向からヒスチジンのイミダゾ-ル基と配位して存在していると予想された。また軸方向にシステインのイオウと水が配位しており、ニトリルと水がすみやかに置換することが予想された。さらに本酵素にはピロロキノリンキノン類緑化合物が含まれ、Fe(III)センタ-の近くに位置して両者が機能的に相関していることが強く示唆される研究結果を得た。コバルト型酵素においては鉄のかわりにコバルトが配位していると考えられ、やはりニトリルのbindingに寄与している。しかしながらコバルト酵素にはピロロキノリン類緑化合物は含まれず、ポルフィリン様色素の含有が認められた。鉄型およびコバルト型ニトリルヒドラタ-ゼのクロ-ニングを行い、遺伝子の塩基配列を決定したところ、両遺伝子はきわめて高い相同性を示すことが明らかとなった。
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