天然界にはモノフルオロ酢酸をはじめとする各種の有機フッ素化合物が存在する。モノフルオロ酢酸をグリオキシル酸とフッ素イオンに分解するハロ酢酸デハロゲナ-ゼは細菌から精製結晶化され、酵素化学的諸性質も解明されている。しかし、これらの有機フッ素化合物がどのような機構で生合成されるのか明らかではない。これまでに単離されたハロペルオキシダ-ゼはいずれもフッ素イオンにはまったく作用しないので、フッ素イオンの有機フッ素化合物への取り込みには新しい酵素系が関与していると考えられる。本研究ではフッ素イオンを有機フッ素化合物に取り込むことのできる微生物を広く天然界から検索し、合成されるフッ素化合物の単離同定、生合成に関与する酵素の精製、酵素化学的諸性質並びに酵素反応機構を解明することを目的としている。高濃度のフッ素イオンの存在下で生育する微生物を多数分離した。細菌の他、放線菌多数が分離された。培養液のFー19ーNMRを測定したところ、放線菌、Stereptomyces cattleyaがモノフルオロ酢酸のほか、モノフルオロエタノ-ル及びモノフルオロスレオニンを生成することが見いだされた。本菌を各種の条件下にて数回変異処理することによって高濃度のモノフルオロ酢酸を蓄積する変異株を得た。本変異株を用いて培養法を検討すると共に、再現性よく培地中にモノフルオロ酢酸を生成させる条件を確立した。Cー14で標識した各種の化合物を用いてトレサ-実験を行った結果、ヒドロキシピルビン酸がモノフルオロ酢酸の前駆体であることが明らかになった。現在、無細胞系でモノフルオロ酢酸を生成させるための反応条件を検討している。
|