研究概要 |
新規な植物ホルモン物質の開発は,資源植物とその培養細胞の生長・分化・増殖を制御する上で、重要な課題の一つと考えられる。本研究では、筆者らが見いだした微生物起源新オ-キシン物質、acremoauxin A(AAーA)[1ー0(2S)ー2ー(3ーindolyl)propionyl]ーDーarabitol、を効率的な方法で合成し、AAーAとその関連物質について、増殖や分化が困難な針葉樹カルスに対する施用効果を検討する事を目的に研究を行い、次のような成果ならびに新知見を得ることができた。 1.AAーAの合成研究では、光学活性インド-ルプロピオン酸(IPA)の調製法が重要な問題と考えられたが、これはAAーA生産糸状菌(Acremonium roseum)がラセミ体のIPAを(+)ーIPAと(-)ー2ー(3ーindolyl)propaー1ーolに微生物変換することを見いだしことにより、高い光学純度を有する(+)ーIPAを効率よく調製する事ができた。さらに、得られた(+)ーIPAとDーマンニト-ルから調製したarabitol2,3:4,5ーdiacetonideを触媒の存在下でDDCにより縮合させ、次いで脱保護することにより、極めて高い光学純度を有するAAーAを合成する事に成功した。その各種スペクトルデ-タは、天然物と完全に一致した。 2.クロ-ンスギ(東南置賜4号、岩船7号)カルスの増殖に対するAAーAとその関連物質の効果の検討においては、それぞれの茎頂から誘導した無色カルスの増殖速度が、IAA,AAーA<(±)ーIPA,IBAの順であり、いずれも短時間(5〜7日)に効果を失いカルスが褐変化すること事が明らかとなった。しかし、インド-ル核を有しない合成オ-キシンは、20日以上活性が持続し、カルスの色も変わらず生育は良好であった。
|