食品および細胞の凍結により生成される氷晶分散構造の制御やその食品加工操作および細胞保存への応用を目的として、水の凍結挙動を凍結条件から予測し、それに伴い生成する氷結晶分散構造と凍結条件との関連性を調べ、凍結を手段とする食品の物性及び加工操作の制御という観点から、凍結条件と氷晶分散構造との関係及びその分散構造と凍結試料の凍結乾燥速度、前進凍結濃縮、凍結組織化および細胞凍結について検討を加えた。本研究によって得られた結果は以下の通りである。 (1)凍結条件から凍結挙動を予測するモデルとして、筆者らの提案した水の存在状態および過冷却現象を記述できる三段階凍結モデルが有効であることが明らかとなった。(2)水の凍結によって生成する結晶成長に対する理論的解析から、凍結界面構造が、(凍結界面進行速度)=(凍結界面での水の物質移動速度)×(凍結界面面積)により記述され、これを実験的に確認した。(3)氷晶分散構造と凍結乾燥速度、懸濁液及び溶液の前進凍結濃縮、凍結組織化との関係について検討した。凍結乾燥においては、速い凍結速度は緻密な氷晶分散構造を与え、そのため凍結乾燥速度は遅くなった。懸濁液および溶液の前進凍結濃縮では、速い凍結界面進行速度は、緻密な凍結界面構造を与え、そのため凍結濃縮効果は低下し、この防止には攪拌による、凍結界面での物質移動速度を大きくすることが有効であった。大豆タンパクゲルの凍結組織化では、凍結変性の程度は凍結界面進行速度が遅いほど大きかった。これらのの結果はいずれも先の凍結界面構造に関する理論的結果によって定性的説明が可能であった。(4)酵母およびブドウ培養細胞の凍結はいずれも、かなりの程度の過冷却を伴って起り、また、細胞凍結保護剤としてのDMSOの機能には、少なくとも凍結温度低下作用と不凍水量増加作用の二つのメカニズムが存在することが示された。
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