研究概要 |
岐阜県荘川村の広葉樹林を平成2年7月から8月にかけて調査し、24本の落葉広葉樹を伐倒して資源量推定に関する基礎デ-タを収集した。調査の具体的内容は、チェンソ-による大型樹木の伐倒、樹体各部の直径と長さの測定、電子ばかりと大型天秤による幹・枝・葉・果実の地上高別の重さの秤量、などである。この調査には、研究代表者および分担者計3名のほかに、謝金で雇用した者,および他大学と他機関からの参加者を含めて、延べ100名以上の人間が参加した。本研究目的に関する熱心な討議が、現地に於てさまざまな研究者によって行われたことも、成果の一つとして挙げられる。収集したすべてのデ-タを資料集として発刊した。 新たな知見として、11樹種について各器官毎の相対成長関係が決定された。次年に行う調査結果とあわせて、中部山岳地域に広い分布域を持つ落葉広葉樹林のバイオマス資源量が、この関係式を使うことによって従来より高い精度で推定できる。また、生態学的見地からは、多様な樹種の形状と森林の中での各樹種の生活様式の関係があきらかとなり、森林の形成過程に関する情報が得られた。たとえば、一般に陽樹とされるホオノキ,シラカンバ,コナラ,クリなどでは、樹冠の厚みが少なく個体当りの葉の量が相対的に少ないこと、カエデ類など耐陰性がやや高いとされる樹種群では、樹冠が厚く葉の量が相対的に多いこと、ミズナラでは個体による樹冠形の可塑性が高いことがわかった。長期の時間経過にともなう森林の樹種構成の推移を、現在の森林の状態から推定することが可能となった。これは、天然生林を管理する上で、非常に大切な情報を提供する。本研究の今後の課題として、このような生態学的視野にたって、生態生理の分野にまで研究領域を広げて、さらに多くの樹種の性質について明らかにしてゆくことが考えられる。
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