研究概要 |
皆伐跡地に設けた試験地において平成2年度に引き続き,リタ-フォ-ル量,流出量の測定を行った。さらに降水による養分の外部から流入量,萌芽林内での還元量,土壌中の養分集積量,渓流への土砂流出量,養分流出量の測定を行った。伐採跡地でのリタ-フォ-ル量および養分還元量は萌芽更新によって増加し,7年目には約3t/haにまで回復し,斜面中部・上部で回復が速かった。これに対して,スギ・ヒノキの造林地では0.8/t/haとリタ-フォ-ル量の回復は遅いことが明らかとなった。リタ-フォ-ルによる養分還元量の回復も同様の傾向を示し,Nが21〜60%,Pが21〜51%,Kが15〜34%,Mgが21〜69%,Caが55〜139%の回復を示した。一方,降水による養分還元量は萌芽更新地でN:2.9kg/ha,K:39.1kg/haとカリウムの還元量が多かった。ヒノキの人工造林地ではK:14.3kg/haと降水による還元が少なく,林分が閉鎖するまでは萌芽林の方が多いと考えられる。渓流への水の流出率は約75%となり,一般の森林からの流出に比べて高く,伐採の影響が残っていると考えられた。土砂の流出量は年間に33.9kg/haとなり,当初の予想よりは少なかった。この測定が伐採後6年目にあたることから,植生の回復によりかなり減少していたと考えられる。流出水に含まれる物質量はK:7.4kg/ha,N:2.2kg/haとなり,集水域の収支で見るとカリウムはマイナス,チッ素はプラスとなった。以上の結果を総合すると伐採後地上部現存量は初期から速く増加し,リタ-フォ-ル量も萌芽林ではかなり回復が速い。しかし,人工造林地ではリタ-フォ-ルによる養分還元の経路の回復は遅い。流出による物質の生態系外への流亡は伐採直後にのみあらわれ,地上部現存量が回復しはじめる伐採後5〜10年目には小さくなると考えられた。皆伐跡地での物質循環の面からみると萌芽林では循環経路が比較的速くから回復するが,人工造林地ではその回復が遅い。この点に留意しつつ施業を行うことが重要である。
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