研究概要 |
本年度は,久住山での氾濫原の調査,上高地での氾濫原の調査地選定をおこなった. 主な調査項目は,氾濫原の微地形測量,礫の位置および粒径測定,植生調査(樹種,位置,胸高直径,樹高,樹齢),堆積断面である.いずれも,最近数十年以内に少なくとも数回の土砂の氾濫堆積があり,とくに久住山では10年以内に2回程度,樹林内に堆積した痕跡が見られる. これまで,樹林帯は土砂の氾濫堆積によって一掃され,土砂抑止能力は小さいと思われていた.しかし,ナラ,リョウブなどの広葉樹で30年生程度(D.B.H.=40cm)の樹林になると,直径1m程度の巨礫群にたいして抑止効果を発揮していた.これらは,自分自身は倒壊することなく,衝撃力に対する根系の抵抗力のおかげで傾斜したまま生き残り,萌芽更新によって新たな樹林形成の母樹となっている. また,氾濫原が埋土種子の残れない1次遷移の場である場合は,リョウブの萌芽更新とアセビの侵入による初期植生がみられることがわかった.氾濫原での土石流フロントの形は,ササの侵入と高さによって明らかになった.これは,ササが根茎によって生育範囲を拡大するときに,1〜1.5mの土石流フロントの落差を一気にのぼりきれなくて,しばらくそこで拡大を抑えられることによるものと考えられた.現在,樹木の埋没深さが生存と非生存とどの様に関係するのかについて,樹種別,樹齢(太さ)別に分析している. これらの結果をもとにして,土砂の氾濫堆積の規模・頻度・強度の3次元座標上に樹林帯の林分構造をプロットし,樹林構造ー土砂氾濫の関係を分析している.来年度の調査は久住山,上高地と長崎県の眉山のそれぞれ氾濫原についておこなう予定である.
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