氾濫原に成立した樹林帯において土砂がどのようにふるまい、それに対して樹林帯がどのように応答するかについて、長野県上高地八右衛門沢扇状地と大分県九重山玖珠川扇状地とに調査した。本年は、土砂の氾濫堆積の規則性について、規模(強度とひろがり)と頻度とによって普遍的に定量化する方法を確立することを目標にした。このために次の2点について明らかにすることが必要となった。 (1)樹林帯の構造(樹種、樹齢、大きさ)によって、土砂の氾濫堆積の規模と頻度とはどのように影響されるのか。 (2)土砂の氾濫堆積の規模と頻度によって、その後の樹林帯の回復はどのように影響されるのか。 (1)について、土砂の堆積地に沿ってプロットをとり、プロットごとの樹木の胸高断面積を合計した。その結果、土砂の流下方向に胸高断面積は減少するが、その割合は一定ではなく段階的に減少することがわかった。これは、樹林が粗度抵抗としてはたらく以外に、ひとつの土石流フロントをいくつかのフロントに分解することによって生じることがわかった。 (2)について、樹種、樹齢、大きさから樹林の発達度合という指標をもうけ、その発達度合の差から樹林の回復プロセスを推定した。その結果、規模の小さい土砂移動が高い頻度で樹林を撹乱する場合と、頻度は低くても規模の大きい土砂移動が樹林を撹乱する場合との、回復プロセスの違いが明らかになった。 以上の結果から、樹林帯での土砂の氾濫堆積を規模と頻度に基づいた概念モデルとして提案した。来年度は、このモデルを数値化することに重点をおきたい。
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