研究概要 |
近年のわが国におけるスギ花粉アレルギ-患者の急増は,スギ花粉飛散数の増加が原因の一つとされる。これに答える基礎資料を得る目的で,林齢の増加にともなう花粉生産量増減の推移を研究した。京都貴船の35年生林から和歌山高野山の約600年生林までの年齢範囲のスギ林で生産された1990年の花粉数は,土地面積1ha当たり4.1〜35×10^<12>粒であった。林齢の進行につれて花粉生産は増大するが,80年生以上の林では頭打ちとなり,この年齢から樹高45mを越える約600年生老齢林に至る広範囲の年齢で,花粉生産は一定とみなすことができた。この頭打ち開始年齢は60年生前後と推定するが,この問題及び開花開始年については,三重美杉の15〜90年生の七つの林で調査中である。本年の2倍ちかい生産があった1988年には,今回と同じ結果を得ている。凶作だった前年1989年には,この林齢と花粉数の関係は認められなかった。二段林への移行を目標とする(高齢の)疎林の花粉数は,よく閉鎖した林と同程度であった。立木本数の多少は花粉生産に無関係にようである。花粉生産の頭打ち現象が起こる前の,約35年生林の花粉数では,生育の悪い林は良い林の2〜3.5倍多かった。これは開花開始の違いによると考えられる。スギ林の花粉生産数は,筆者らが調査した他の16樹種の林と比較して特別に多いことはなかった。以上の結果は,金指氏らが関東地方の調査から,「林齢が30年を越えたスギ林では,100年生以上の天然生林に比肩する」花粉生産があるとする結果とは異なるものであり,また医学の分野ではこの金指らの調査結果を基に,30〜40年生を「花粉生産の適齢期」と呼んでいるのは誤った解釈であると思う。来年度1991年には,雄花つぼみの落下が著しく多いことから大豊作と予想され,その調査結果が期待される。なお,三重美杉の一連の調査及び地位の異なる林の花粉生産量の比較は,現在,試料整理中である。
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