研究概要 |
近年スギ花粉症患者の急増は,太平要戦争後に大面積植栽されたスギ林が花粉を生産する年齢に達し,これらの林が発生源となって空中花粉の絶対量が増加しているためであろう,といわれている.これに答える基礎資料を得るため,林齢の進行に伴う花粉生産量の推移を研究した.調査林は京都府貴船と三重県美杉の林齢12〜90年生の計11植栽林,及び和歌山県高野山の600年生墓地林である.林分花粉生産量は林齢と共に増加する.しかし林齢50年で生産量は頭打ちとなって,それ以降は一定となり,この生産量は600年まで続くと考えられた.頭打ちとなる1991年の上限の雄花数は270×10^6/ha・yrであった.50年生以上の林分でも雄花数には林分差がみられ,230〜270×10^6/ha・yrの範囲を示した.この範囲の値を示す林分は40年生のものにも認められた.問題視されている戦後植栽のスギ林は30〜40年生であるから,これらの林分が生産する花粉量は,現在も経年により増加を続けているとみて間違いない.一方,空中花粉量はスギ林の齢級別総面積の増減との関係から決まるから,これは地域差があろう.スギ雄花の豊凶較差は著しく大きいので,豊作となる年を予め予知して防備すれば症状は改状は改善されると思われる.雄花中の花粉数を5.5×10^5と仮定すると,1991年の上限値は1.5×10^<14>/ha・yrと推定される.これは大豊作である.今回の調査から,1992年の花粉生産量を5×10^<11>/ha・yr前後と見積ることができる.この値は前年の300分の1程度の生産量に相当し,大凶作になると予想される.若齢スギ林のなかには間伐遅れの高位木本数のものが多い.このような林は適正な間伐林と比較して雄花数が少い傾向を認めた.逆に,樹下植栽した疎林の値は閉鎖林と等しかった.近年の農山村の過疎化による森林保育の遅れは花粉生産を抑制していると推察された.
|