刃物の逃げ面だけに非常に薄く炭化バナジウム(VC)を被覆することにより、逃げ面側からの摩耗を防ぐ一方、すくい面側からの摩耗を切屑の流出摩擦力などによって積極的に行わしめることにより、常に刃先が鋭利に維持され、切れ味が低下しないような自己研磨特性をもたせた木工用刃物を開発することを目的とした。 VCの代わりにクロム(Cr)を用いると、シリカを含有しない木材に対しては、その特性が現れる(論文1〜2)。Crは硬度が1000HVとシリカの1200HVより小さいので、特に高速切削になるとシリカ含有木材の切削に不適となり、3500HVの硬度をもつVCが期待されつつある。従来、VCの効果に不安定なところがあった。しかし、今回の研究を進めるに従って、VCの効果を引き出すための重要な条件が、刃先の研磨において2つあることが分かった。1つは、VCの硬度はアルミナなどの研磨剤より硬いのでダイヤモンド研磨剤を用いて精密に研磨すること。もう一つは、VCは処理時に発生する脱炭層を十分に削り取ってから使用すること。 今年度は、計画通り、低速平削り試験によっていろいろな樹種の木材を繰り返し切削したところ、VC刃物は、Cr刃物と同等の自己研磨特性を示した(論文3)。すなわち、スプル-スの切削では未処理刃物は切削長1kmに至るまでに寿命に達するのに対して、VC刃物、Cr刃物共に切削長4kmまで初期の切れ味を維持した。アルダ-、ブナは3kmまでもった。ホオノキ、ベイヒも自己研磨特性を十分に示したが、スギは、不十分であった。これは、スギの春材部が極端に軟質であるためと思われる。
|